「どうして早く,こっちに来ないの?」。手を伸ばした量子の先の,君がささやく。
デンマークの科学者が,テレポーテーションの困難な部分を実現した。ある場所から別の場所に,電子粒子の情報を移動させれば,本質的に同じものになる。情報さえ送れば,粒子そのものは必要ない。オルフス大学の科学者たちは,セシウムガスに光ビームを照射することで量子「スピン」の情報を持たせ,これによって移動空間の間で量子相関(エンタングルメント)が可能とした。理論上はテレポーテーション実現に一歩近づいた。
最後の部分にちょっとだけ出ているが,プロセッサーが膨大な(いや,膨大なだけではすまない)情報を瞬時に処理する量子コンピューターでは,すべての情報を量子形式にして処理する。すべての物質は量子となり,人間とて同様。今,世界の果てに行くのは「0」と「1」に変換された文字・音楽・動画だけだが,その時,肉体も肉声も,すべて量子として世界の果ての絶壁までたどり着く。
フルレンジ,フルモーションで,メタファライズされた肉体はネットワークをたゆたう。そも,量子の行き交うプロトコルの中で,わずかに開いたクラック・ホールから,人は接触を求める。そこはコミュニケーションのための世界ではなく,リアルな触れ合いの世界になる。リアルよりもリアルな,指先,吐息。覚める梦(ゆめ)に向こうに,君にみつける。
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